「発達障害は研究者向き」の無責任を考える

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「発達障害の人にはどんな仕事が向いているか」というのは、発達障害児の子育てにおいて(あるいは発達障害当事者の職探しにおいても)長い人生の大部分を左右しうる非常に重要なテーマと言えます。
その文脈でよく聞くのが、「発達障害には研究系の仕事が向いている」という言説です。
ただ、「仕事の適性は人によって大きく異なる」という前提を踏まえ、「本当にそうか?」「実際にはどんな仕事が合いそうなのか?」というのは早い段階で考え始めるべきだと思います。
今回は、あくまで私の個人的な体験がベースではありますが、そのことについて考えてみたいと思います。

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どう考えても弁護士は発達障害が多い

まずちょっとした前置きとして、これまでに私が見てきた範囲の話から。
このブログで詳細を語ることはしませんが、私はこれまでの少し変わった経歴の上で、たくさんの弁護士さんと接する機会がありました。
10人20人ではなく数百人のレベルです。

その中で、(もちろん素人が「この人は発達障害だ」などと判断することはできない点を承知したうえでもなお、)「いやこの人完全に発達障害でしょ…」と思わずにはいられない弁護士さんを山ほど見てきました。
この点に関しては、私の視点だけでなく、弁護士をやっている大学同期某氏も「実際発達障害っぽい弁護士なんかいくらでもおるで、自覚してないし仕事に支障があるとも思ってないからそれで回ってるだけや」と言っていた旨、そして私が心の中で彼に「お前もその一人やぞ」と突っ込んだ旨を書き添えておきます。

発達障害傾向がある弁護士さんだと、企業法務系の大手事務所でサラリーマン的に働くのには向き不向きの差が大きいように思います。
これに対し、昔ながらの小さな個人事務所を構えるいわゆる「マチ弁」であれば、仕事のうえで大きな問題はなく、弁護士大増員の影響は受けつつも食べていくには困らない…という感じの弁護士さんは複数目にしました。
それを見て感じた定型的なスタイルが、「弁護士業務自体は自身の法的知識でつつがなく処理し、事務作業は他の法律事務所で経験を積んだやり手の事務員さんに任せる」というやり方です。

不適当を承知で雑なくくりで書きますが、発達障害の人は基本的にマネジメントには向かないことが多いでしょう。
しかし、「弁護士は自分1人、パラリーガルが1人か2人」のような小規模な業態であればまあ回せるわけです。
また、会話が苦手だとしても、「弁護士さんはどのように訴訟手続きを進めていくか等を的確に示してさえくれれば、人当たりの良さは別に重視しない」という依頼者は結構いるものです。

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「発達障害は弁護士に向いている」という話ではない

強調しておきますが、ここまでの内容は決して「発達障害の人は弁護士を目指そう」というような趣旨では全くありません。
「発達障害気質を法律の勉強に全振りした結果、たまたま上手くいっている事例が私の観測範囲にあった」というだけの話です。
発達障害で勉強が得意でも、法律系の仕事には全く向かない人も同様に多くいると考えるべきでしょう。
実際、発達障害(ASD)当事者である私自身は、大学で法学部に進学したにもかかわらず、法律の勉強に驚くほど適性がありませんでした。

私が高校生の頃には、法律バラエティ的なテレビ番組が2つありました。
みのもんたの「ザ・ジャッジ!〜得する法律ファイル」と、島田紳助の「行列のできる法律相談所」です。
「ザ・ジャッジ」もそうですが、「行列~」も当初は1時間丸ごと法律問題を取り扱っており、わりと真面目な作りの番組でした。
私はどちらかというと「ザ・ジャッジ」の方をよく見ており、法学部に進学したきっかけの1つがこの「ザ・ジャッジ」だったと言えます。

ただ、ここで問題だったというか気付くべきだったことがあります。
弁護士ごとにバラバラの意見を戦わせ、必ずしも明確な結論を出さない「行列~」に対し、「ザ・ジャッジ」は法律問題に1つの解を導き出すような体裁でした。
しかし、法律論は答えが1つに定まるものではなく、訴訟のニュースなどを見れば分かる通り「地裁と高裁で判決が真逆になる」なんてことも起こります。
この点では「行列~」の方がある意味正しかったわけですが、どうやら自分にはこの「答えが1つではない」という法律の実態が徹底的に合わなかったのです。

実際に法学部で学んで初めて判明したことですが、私が実際に困ったのが
・多数説の結論に至る筋道を覚えると、反対意見の少数説が全く理解できなくなる
・「〇〇について論じよ」という抽象的な設問に全く答えられない

といった状態です。
これでは論述問題ばかりの法学部の試験に太刀打ちできるはずもないですし、身の丈より偏差値の高い大学に進学したのも良くなかったと思います。
結果、私は真面目に講義を受けているにもかかわらず、頻繁に専門科目の単位を落とすダメ学生に成り下がりました。

私は高校生の頃に数学が苦手過ぎて文系を選んだのですが、「答えが1つに収束するのが好き」なのであればむしろ志望校のランクを落としてでも理系進学していた方が良かったのでは?と思うことが未だにあります。
簡単なことではありませんが、高校生のうちに「大学では実際のところどのような勉強をするのか」をしっかり見据えて進路選びをすることが重要なのでしょう。
発達障害に限らずですが、高校までの得意科目や将来の夢で安易に大学を選ぶのはかなり危険と考えるべきです。

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発達障害に、ではなく特性に合う仕事

先ほど、「自分は理系進学しておくべきだったかもしれない」と書きました。
今は結局、紆余曲折を経て障害者雇用でニッチな仕事をしており、それには学歴も活かされているので結果オーライではありますが、ここに至るまでに10年ぐらいは回り道をしてしまいました。
やはり「高校の時の進路選択をもっとしっかり考えとくべきだったなあ」とは未だに思っています。

まあ、私の場合は高校生時分に「発達障害」など全く知られておらず、自分が「普通」の軸からズレているという自覚もなかったので、「もしも」を考えるのは不毛なことです。
ただ、こうして発達障害の情報が一般的に知られるようになった今だからこそ、発達障害の子供を抱える親御さんには進路選択の重要性を理解していただきたいのです。
「そんなことは分かってるんだよ」と言われそうですが、いや本当に、「なるべく人と喋らない方がいい」のと「好きな分野の話ならいくらでもできる」のでは全然別物ですし、前述の「結論に至る筋道さえ正しければ正解はいくつでもありえる」を許容できるのか?という点もポイントになると思います。

また、手に職系の仕事であれば、「喋れない」を武器にするという方法も実はあるのでしょう。
最近話題になった中で本当に目からウロコだったのが、「喋らない美容院」です。
美容師と言えば「トークも仕事のうち」の代名詞である一方、客の立場としては「喋るのが苦手だから行きたくない」という人さえいるのが美容院ですが、「カット+会話なし」というメニューを提供している美容院がTwitterで話題になりました。

美容院なのに「会話なし」 あえて加えた斬新なメニュー欄が話題
カット、パーマ……。そこに、あえて「会話なし」を加えている美容院の斬新なメニュー欄が、ツイッターで話題です。「苦手を武器にする天才」と賞されたメニューを作った美容師に話を聞きました。

これなんかは、「着眼点を変えれば需要はある」の好例だと思います。

「発達障害におすすめの仕事」のような主語のデカい話は避けよう

長々書いてタイトルの研究職の話をしていませんが、結論として言いたいのは、「発達障害に向いた仕事」なんて言っても発達障害の範囲が広すぎて、そんなピンポイントのものは存在するはずがないという話です。
弁護士さんの話を「発達障害気質を法律の勉強に全振りし、たまたま上手くいっただけの事例」と書きましたが、これは研究者にも当てはまるでしょう。
発達障害と研究職の相性というのは、「『たまたま上手くいく』の確立が他より多少上がる」程度のものではないかと思います。

理系科目が得意な子、文系科目が得意な子。
ひたすらしゃべり続ける子、黙々と作業し続ける子。
人それぞれの特性によって、目指すべきルートは当然に変わってくるはずです。
要は、「発達障害の子には研究職が向いてるらしいから、理科も算数も苦手だけど将来のためには無理やりにでも理系の勉強させなきゃ」というのはかなり危ないわけです。

じゃあどうしたらいいんだ、という結論は私自身も出せていません。
18歳の時点でなるべく本人の気質に合った選択肢を選び取れるよう、八方手を尽くして情報を収集することでしか、少しでもマシな未来は望めないでしょう。
少なくとも、私のように「学部で学ぶ内容が肌に合わないことに入学してから気付く」「合格圏内の大学の中で一番偏差値の高いところに進学した結果、勉強についていけなくて潰れる」というのは最も避けるべき事態だと思いますので、後進の皆さんが私という失敗例を他山の石とし、無理なく働ける環境に身を置けることを祈っています。

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